ケアのTomorrow Life

第8回「生活支援サービスは誰が提供するのか」

[ 高齢者住宅新聞 12月25日号 ]

白澤 政和 氏 | 桜美林大学大学院老年学研究科 教授

今回の法改正では、「生活支援サービス」という耳慣れない言葉が目につく。生活支援サービスとは、見守り、配食、買い物等のサービスを指す。さらには、そこに財産管理等の権利擁護のサービスを加える場合もある。

利用者の意向、心身の状況に合わせ支援

国の説明では、こうしたサービスを必要としてきた背景として、一人暮らしや高齢者夫婦のみ世帯、また認知症の人の増加を挙げている。要するに、家族の基本的な生活機能が弱くなってきており、それを制度的に補っていこうとするサービスのことである。
 
ただ、この生活支援サービスは、一部は介護保険制度のサービス内容にもなっており、一部は介護保険外で、提供されている。
例えば、調理や買い物、さらには自立に向けた見守りは介護保険制度では、訪問介護員による掃除や洗濯等と合わせて生活援助サービスとして位置づけられ、ひとり暮らしや老老介護家族の要介護者・要支援者の自立支援に向けてサービスが提供されている。
 
一方で、調理については、配食サービスとして多くの地域でボランティアやNPOの団体、時には自治会組織が実施している。また、企業や食堂が営利として実施している。
買い物については、「買い物難民」という言葉があるように、過疎地などを中心にして、要支援・介護の一人ぐらしや夫婦世帯の高齢者の大きなニーズとなっている。こうしたニーズを満たすために、NPOが活躍している地域もある。また、宅急便会社、社会福祉協議会、地元スーパーが連携して利用者宅に必要な品物を届けるサービスも試みられている。また、コンビニが注文を受けて配達することも始まっている。
 
食事については、これらの方法以外に、従来は「おすそ分け」といった呼び名で、近隣でのインフォーマルな食事支援もあった。また、高齢者が買い物をできないなら、近隣が買い物をしてくれていた。また、ひとり暮らしであれば、近所の人が見守ってくれていた。このように、過去形になりつつあるが、今でもインフォーマルケアである住民間の相互扶助は程度の差はあれ、多少とも残っている。
 
ただ、インフォーマルケアの提供が十分でなくなってくる中で、多様な組織・団体による上記のようなサービスや介護保険制度が出現してきたと言える。まさに、家族や地域社会の機能低下に応えて、サービスが出現してきたといえる。
 
そのため、当然、地域住民のインフォーマルケアもできる限り維持させながら、同時にフォーマルケアを育成していくことが必要である。現実の支援方法としては、地域の特性により、近隣やボランティアといったインフォーマルケアと、様々な機関・団体が行っているフォーマルケアを併用していくことである。さらに、利用者側の意向や心身の状況に合わせて、多様なサービスや支援の中から利用者が取捨選択できるよう支援していくことになる。
 
さらに、要支援・介護者への買い物や食事に対するフォーマルケアは介護保険のサービスとして実施していくのか、介護保険外の制度として実施していくのかは、今までからあった議論である。今回の生活支援サービスが強調されていることの背景として、要支援者の食事や買い物支援といった介護保険サービスを、介護保険制度の外で対応できるよう意図しているものと推測できる。さらには、新設される「介護予防・日常生活支援総合事業」で、一部の要支援者を地域支援事業の対象者に移動させるのは、このような意図があってのものではないかと思われる。
 
この議論の核心は、介護保険制度が担うサービスの範囲はどこまでかということにある。現実には、要介護者を例にとると、訪問介護は家事と介護を担っており、一人暮らしの要支援者には家事を提供しており、介護保険制度は介護を超えた自立的な「生活」を支える保険として位置づけられている。この仕組みを堅持するとすれば、上記のような配食サービス、買物支援サービスも、介護保険サービスのメニューに含めるべきである。そして、個々の地域特性や個人の意向に合わせて、多様な選択肢が用意されるべきである。結果として、効果的・効率的なサービスに、介護保険制度をしていくことになる。
 
一方、介護保険は介護の保険であると限定すれば、家事サービスだけでなく、医療サービスや住宅改修サービスまで含めており、介護に限定できるのかという疑問が生じる。あえて、医療や住宅改修サービスを合わせて介護の保険とした場合でさえも、要介護・支援者に対して介護保険制度以外で買い物や食事の支援をどのように保障していくのかの課題が残る。
 
住民の相互援助もさほど期待できない以上、まずは、いずれの地域においても生活支援サービスを充実することが不可欠である。とりわけ、農村部や過疎地でのサービスの開発が求められる。
さらに、そうしたサービスを利用する場合には、利用者の経済状態により利用者負担額が変わる措置制度が復活することになるのであろうか。その際には、市町村の一年間の財源が決められ、なくなれば終わるという昔の制度になるのか。あるいは、「介護予防・日常生活支援総合事業」として介護保険の財源を使ってやっていくのであろうか。あるいは、こうしたサービスは一般市場に委ねられ、経済的に能力がない利用者のみが無料でサービスを利用する制度になるのであろうか。
 
介護保険財源が厳しいことは重々承知している。同時に、それぞれの地域社会で生活支援サービスを創り上げることも大いに期待したい。またインフォーマルケアを再興していくことも必要である。
 
ただ、生活支援サービスを介護保険制度の予防給付から外していくことになれば、利用者の生活支援に対するニーズは、いずれかの方法でもって満たさなければならないことになる。その手立てを示した上で、介護保険制度から生活支援部分を切り離す議論がなされなければならない。さもなければ、高齢者を生活圏域で支援する「地域包括ケア」を確立することはできない。
 
介護保険は国民が支えるものである以上、生活支援の位置づけについても、国の責任で決めるのではなく、国民が議論し、決定していくべきである。同時に、地域の特性にあった仕組みが必要である。

しらさわ・まさかず プロフィール
桜美林大学大学院老年学研究科教授。社会学博士。 1949年三重県名名張市生まれ。74年大阪市立大学大学院修士課程修了。94年大阪市立大学生活科学部人間福祉学科教授を経 て、現職。日本学術会議会員、日本在宅ケア学会理事長、日本社会福祉学会会長。 近著に『「介護保険制度」のあるべき姿』(筒井書房)2011年、「キーワードでたどる福祉の30年」(中央法規出版)2011年。 日本で最初にケアマネジメントに関する論文や著書を書き、日本の土壌でのケアマネジメントを提唱。最近では、ストレングスに 視点を当てたケアマネジメントの方法についての研究を焦点にしている。