第9回「『介護予防・日常生活総合支援事業』の意図すること」

第9回「『介護予防・日常生活総合支援事業』の意図すること」

[ 高齢者住宅新聞 1月5日号 ]

白澤 政和 氏 | 桜美林大学大学院老年学研究科 教授

生活支援サービスという言葉が今回の改正で目立って使われていることは前回に述べた。これは、今回の介護保険法改正で新規に実施することになっている「介護予防・日常生活総合支援事業」(以下、「総合支援事業」とする)と極めて密接な関係がある。

介護予防の評価もとに「総合支援事業」を

総合支援事業は、保険者がこの事業を実施するかどかを決めることから始まる。それも、この事業は来年からのスタートだけでなく、その翌年度からも、様子を見ていつの年次からでも保険者はスタートできることになっている。
 
この事業は今まで要支援と認定された者を、当該市町村が作成する一定の基準でもって、要支援者と2次予防事業対象者に分けることになる。この決定には、利用者の意向を尊重するとされているが、2次予防事業対象者になった場合は、市町村の定めるサービス等を利用することになる。このサービスには、配食、安否確認・緊急時対応、さらには身体介護等の訪問型サービス、機能訓練等の通所型サービスが含まれる。
 
2次予防事業対象者になった場合にも、地域包括支援センターやそれを受託した介護支援専門員が必要に応じてケアプランを作成し、利用者のニーズに合わせて生活支援サービスや予防サービス、さらにはインフォーマルサポート等と結び付け、利用者に提供されることになる。
 
ここで思い出すのが、一昨年度の介護保険部会で、訪問介護員が食事の準備をすれば、1回当たり平均総コストは2000円程度(自己負担額は1割の200円程度)となるが、配食サービスは500円程度であり、後者は全額自己負担であるが、訪問介護員が食事の準備をするのはコストがかかり過ぎるのではないかという議論であった。この議論に応えたのが、この総合支援事業であり、さらに、自立支援のための買物や見守りについても、介護保険サービスから別の生活支援サービスに移していくことが、この事業には意図されているといえる。
 
この事業が実施可能かどうかは、配食、買物、見守り等の生活支援サービスが当該市町村に存在するのかが、まずは根本的な課題である。制度的に言えば住民参加型でコストの低い家事支援サービス、配食サービス、買物支援サービスが準備されているかどうかが第1のポイントとなる。こうしたサービスが存在しない地域では、結局は実質介護保険のサービスを転用して活用することしか方法がない。そこでは、当然、訪問介護事業者は、介護保険制度とは別枠になり、従来よりコストを抑えてサービスを提供することが求められることになる。通所介護事業者についても、保険者から安価でサービス提供が求められることになる。
 
ここでの課題は、コスト面での効率性の以前に、利用者のニーズに合った支援ができるかどうかの課題がある。例えば、利用者によれば、配食サービスで事足りる者もいれば、病気や咀嚼面で訪問介護員が食事の準備をしなければ、ニーズを満たせない利用者もいる。こうした配慮が要支援者と地域支援サービス利用者の仕分けをする際になされることが重要である。
 
第2の課題は、このサービスと財源との関係である。地域支援事業は介護保険財源の3%でもって実施され、既に地域包括支援センターでの職員給与や介護予防プログラムに財源を使ってきており、その内で総合支援事業には2%を上限として使えることになっているが、十分な財源がない中で、どこまで実施可能かの不安がある。
 
この事業は、提供されるそれぞれのサービスの経費は保険者である市町村が決めることになるが、財源不足から、利用者の自己負担分が増加したり、あるいは、財源が不足し、介護保険財源でまかないきれないことが生じるのではないかという不安もある。そのことは、利用者がサービスを選ぶという視点が弱くなることともつながっている。
 
第3の課題が最も重要なことであるが、こうしたサービスが、今後要支援者すべてに拡大されるのではないかという懸念である。要支援者を予防給付から切り離すことは、確かに介護保険財源を抑制する一方法であると考えられるが、そのためには、要支援者の自立支援を基本にして、介護予防として訪問介護や通所介護等の予防給付のサービスを提供してきたことの評価が求められる。本来は、この評価結果をもとに、新規に総合支援事業を実施するかどうかが議論されるべきである。
 
一方、総合支援事業の現実的な課題として、保険者の独自の基準で要支援者を2分し、保険者独自のサービスやその定価や自己負担額も多様で複雑となるため、保険者は報酬支払のコンピュータソフトを根本的に変更しなければならない。おそらくそのコストは膨大なものになることが予想される。介護保険財源を抑制する以上にソフトの変更額が膨大にかかるようでは、元も子もない。
 
本事業を普及していくためには、こうしたハードルを越えていくことが条件となる。