第17回 地域包括ケアで認知症の人をいかに支えるか②―権利擁護の必要性  地域ぐるみで市民後見人の育成・支援を

第17回 地域包括ケアで認知症の人をいかに支えるか②―権利擁護の必要性 地域ぐるみで市民後見人の育成・支援を

[ 高齢者住宅新聞 5月5日号 ]

白澤 政和 氏 | 桜美林大学大学院老年学研究科 教授

認知症の人が権利侵害を受ける可能性は、他の高齢者に比べて高い。認知症の人の財産を守ったり、生活・医療・介護などに関する契約や手続きといった身上監護を行う上での課題がある。認知症の人が虐待を受ける割合は高く、虐待から守ることも必要である。また、ひとり暮らしの認知症の人の場合は、地域の人々から施設入所を強いられるといった問題も生じる。こうした様々な問題から認知症の人を守っていくことが地域包括ケアの基本になければならない。

そこでは地域包括支援センターとケアマネジャーの役割が大きい。まずは、虐待を予防し、虐待事例の早期発見や早期対応ができる仕組みを生活圏域で組み立てていく必要がある。同時に、被虐待の可能性のある人やその家族を生活圏域内の団体や機関が協力し合い支えていくことも大切である。こうしたことを主として進めていくのが地域包括支援センターであるが、ケアマネジャーの役割も重要である。
 
また、ひとり暮らしの認知症の人が地域で生活を続けていく際に、近隣から「火事を起こすのではないか」「どこかに行って行方不明にならないか」「夜に毎日のように救急車を呼ばれるので、寝られない」といった不安や苦情が寄せられることもしばしば生じる。そうした際に、認知症の人は自宅で住み続けたい意思が強い場合が多く、地域の人々と話をしたり、会議をもって、認知症の人の思いを伝え、ケアプランをもとに、不安や苦情を和らげ、地域の人々からのサポートを得られるよう支援するのもケアマネジャーや、時には地域包括支援センターの役割である。
 
さらに、認知症の人の財産を守り、身上を看護し保護することも必要である。これらは成年後見制度で対応することになるが、この制度につなげていくのも、地域包括支援センターやケアマネジャーの役割である。
 
成年後見制度は介護保険制度と同じ2000年に始まったが、成年後見関係事件の申立件数は平成22年には3万件を超え、制度開始年に比べて4倍以上の申立になっている。現在、成年後見制度は14・5万人が活用しているが、120万人程度が活用するものと推計されており、今後も利用が進んでいくと思われる。そのためには地域包括支援センターやケアマネジャーが成年後見制度に関する情報提供に努め、市町村長申立を含め、必要な人を成年後見制度への申立につなげていく必要がある。
 
成年法定後見制度は、この間多くの成果を上げてきたが、課題も露呈してきている。選任される成年後見人らの割合は、親族が制度発足当時の8割から6割へと減少しており、専門家である弁護士、司法書士、社会福祉士が3割を担っている。さらには市民後見人がごく僅かであるが選任されている。また、社会福祉協議会やNPO等が設置した法人後見が増加傾向にある。
 
ただ、最高裁が初めて実施した調査では、2010年6月からの10カ月間で、182件の不正行為による着服が判明し、被害総額が少なくとも18億3千万円にのぼることが分かった。後見人らが解任される件数も2001年の51件から、2010年は286件と急増している。こられの事件の大多数は、親族が財産を管理していたケースであるが、弁護士、司法書士、社会福祉士の専門家後見においても、着服事例が報告されている。
 
こうしたことから、被害を最小限に抑えるために、後見人が、本人の財産を信託銀行に預け、本人の財産を安全・確実に保護する後見制度支援信託が2011年4月から始まった。
 
今後の方向としては、親族後見から、第3者後見に道を広げていく必要がある。とりわけ、法人後見の活用は、複数の専門家が関わるため、財産被害を最小限にすることが可能となる。そのため、社会福祉協議会等の社会福祉法人やNPO法人等が担う法人後見を拡大していくことも大切である。さらには、必要に応じて複数の成年後見人らを選任することで、被後見人の権利を守っていくことが必要である。
 
同時に、成年後見制度には身上監護も必要であり、市民後見人の育成が急がれている。研修を積んだ市民が市区町村に登録され、家庭裁判所が選任することになる。この市民後見人はいくつかの市区町村で先駆的に実施されているにすぎず、全国で200人程度しか登録されていない。こうした担い手不足のため、今年4月からの老人福祉法改正で、市民後見人の育成が市区町村の努力義務となった。
 
イギリスの2005年意思能力決定法(TheMentalCapacityAct)は、人々を自律した個人として捉えることを前提にして、家族を超えた市民を後見人として、人々を支えていく仕組みになっている。(菅冨美枝『イギリス成年後見制度にみる自律支援の法理 ベスト・インタレストを追及する社会へ』「ミネルヴァ書房、2010年」)
 
日本の成年後見制度も、被後見人の最大限の利益(ベスト・インタレスト)を基本にして、自らができない最低限の部分を、家族を超えた地域社会で支えていこうとする市民後見人の仕組みを推進していく必要がある。
 
今後、以上のような市民後見人の育成や支援、さらには法人後見の育成等の支援を、地域包括支援センターが市町村社会福祉協議会等と共同して実施していくことも地域包括ケアで認知症の人の権利を擁護していく上では重要な仕事である。

しらさわ・まさかず プロフィール
桜美林大学大学院老年学研究科教授。社会学博士。