長野県大町市常盤にある社会福祉法人れんげ福祉会は、特別養護老人ホームをはじめ、デイサービスやケアハウス、ヘルパーステーションを運営する地域で唯一の高齢者向け介護施設である。同法人を設立した藤巻氏は、元々介護に関してはまったくの素人だった。しかし、地域の人々の役に立ちたいという熱い思いを胸に、設立からわずか5年で、念願の特養の開設までを実現させた。

銀松苑の特養は、全室個室のユニットケアを実施している。一般的な定員10名のユニットだけでなく、7名のユニットも用意し、よりきめ細かな介護を可能としている。また、床の色をユニットごとに変え、部屋も大きさや壁紙、照明などをすべて変えてある。そのため、認知症の人でも、間違って他のユニットや、他人の部屋に入ると違和感を感じることができる。
玄関から入ってすぐの廊下には、高級感あるカリンの床材を使用し、まるで旅館のようだ。藤巻氏は、「ここは昔の言葉で言えば養老院です。そういうイメージを払拭したかった。家族だって好きで連れてくる訳ではありません。建物のグレードを上げることで、家族に胸を張ってもらいたいと考えました」と語る。
また、施設の一階には、レストランを併設。入居者が家族と利用したり、職員が利用する他、ランチメニューを用意し、地域の人にも開放している。さらに、宴会場としても貸し出しており、土日は予約でかなり埋まっているという。
「人の出入りがない家は滅びます。人がたくさん出入りしていると活気が出るし、入居者も、なんとなくわくわくする。それが刺激になります。また、同じ建物の中でも、外の人が出入りする場所は公共の場所です。それがないと、一日パジャマで過ごせてしまいます。これでは生活にメリハリがつきません。しかし自力で街まで出かけるのは、なかなか難しい。そこで、同じ建物の中に公共の場所を作り、外出の気分を味わえるようにしました」(藤巻氏)
藤巻氏が配慮するのは、入居者だけではない。職員の休憩室を整備したり、託児所を設けるなど、働きやすい職場になるよう心がけている。
「待遇がよくなければ、気持ちよく働けません。気持ちよく働けなければ、気持ちよく利用者に接することは難しい。介護の質を高めるためにも、職員の待遇改善は欠かせません」と藤巻氏は語る。
藤巻氏は銀松苑の今後について、「より困っている人を助けたい」と語る。具体的には、重度の人と低所得の人が対象だ。ただし、それを実現するためには、スタッフのスキルを高めることと経営基盤の一層の充実が欠かせない。
藤巻氏は最後に、「祖母との約束で、利益は追求できないのですから、収支差額で出た利益は、労働分配して給与を上げるか、資本分配して施設を拡大するかしかありません。職員にとっては、直接収入が増えるか、働く場が増えるかの違いで、どちらにしても喜ばしいことでしょう。労働環境をよくしつつ、職員にはスキルの向上に努めてもらいたい。同時に、今までは介護ができればよかったのですが、徐々にマネジメントができる人材が必要となり始めています。そういう人を積極的に採用し、ビジョンを具現化するために協力してもらいたいと考えています」と締めくくった。