在宅療養・介護支援の強化で老健施設の新たな姿を目指す

在宅療養・介護支援の強化で老健施設の新たな姿を目指す

岸川正純氏 | 社会医療法人 敬和会 大分豊寿苑 施設長・医師

介護老人保健施設 大分豊寿苑(大分市)は、社会医療法人 敬和会グループの1つとして介護・福祉事業を通じて地域に貢献してきた。2012年度介護報酬改定で在宅復帰支援型の施設としての機能を強化する観点から、介護老人保健施設の在宅復帰率50%という報酬算定要件が打ち出されたことにより、経営的に打撃を受ける施設が多いという。在宅復帰率30%を維持してきた大分豊寿苑だが、新たな算定要件を満たすことを目指して、複合的な在宅療養・介護支援サービスを強化していく。

在宅療養・介護支援の強化で老健施設の新たな姿を目指す
社会医療法人 敬和会 大分豊寿苑
1995年に入所定員90人、通所定員30人で開設。介護保険法施行とともに、通所リハビリテーションの定員を60人に増員し、大分豊寿苑生きがいデイサービス開始(定員15人)、大分豊寿苑居宅介護支援事業所を開設。その後、ヘルパーステーション開設、訪問リハビリテーションを開始。そして、介護保険制度施行前から実施している訪問看護を含めて2006年に訪問系サービスを統括する総合在宅ケアセンターを開設している。

在宅支援サービスの強化で在宅復帰率向上を目指す

こうした入所者の自立した生活を営めるようにすることを支援し、家庭復帰を目指した取り組みにより、岸川氏が施設長になってから大分豊寿苑は在宅復帰率30%を維持している。厚生労働省の2010年統計によると、平均在所日数は329.2日、在宅復帰率は23.8%であるから、いかに大分豊寿苑が在宅復帰に向けて努力しているかがわかる。
 
int016_houjyuen_kiji2ところが、周知のように2012年度の介護報酬改定では、老健施設の在宅復帰支援型施設としての機能強化が打ち出され、在宅復帰率50%を満たさない施設は現行と比べて報酬が下がることになった。「今回の改定にあたって、全国規模の勉強会に出席してみると、在宅復帰率30%を維持している施設はほとんどありませんでした。それにもかかわらず、30%が当たり前の基準になり、30%を達成しないと特養並の報酬になってしまいます。30%を維持するだけでも必死になってきたのが実状で、50%に引き上げるのは並大抵ではできません」(岸川氏)と、実態とかけ離れた算定要件に頭を悩ませる。
 
「例えば、過去に1カ月で12人の入所者を病院に搬送せざるを得ない状況にあったとき、分母である退所者数が12人加算される上に、在宅介護に移行した人数が変わらないので、その月は在宅復帰率が一桁になったことがありました。6カ月平均で30%を維持しようとしたとき、その影響は非常に大きく、翌月には必死で在宅復帰を進めなければなりませんでした」(岸川氏)と、過去6カ月間の退所者に対する在宅介護移行50%のハードルの高さを指摘する。
 
過去3カ月の入所者のうち、要介護4、5が35%以上、痰吸引実施者10%以上といった重度者要件があるが、「実際は要介護度4あるいは5の入所者が多く、寝たきりで常に体位変換が必要で、痰吸引している入所者も多い中では非常に難しいのが実状」としつつも岸川氏は、「経営上は在宅復帰率50%を目指さざるを得ない」と強調する。そして、在宅復帰を推進するために在宅療養・介護を支援する体制強化、サービス提供がより重要であり、多機能型の老健施設への変革が必要だと述べる。
 
大分豊寿苑は、これまでもヘルパーステーションや訪問リハビリテーションなどの訪問系サービスの展開をはじめ、通所リハビリテーションも昨年には定員80人から100人に拡大したほか、訪問看護ステーションについても同所の本部に加え、サテライトステーションを開設している。こうした在宅療養・介護支援サービスの展開に加え、新たな事業計画として在宅支援施設の建設を予定している。
 
int016_houjyuen_gaikan「従来、女子寮として使ってきた敷地内の4階建てビルを建て替え、地域の高齢者のコミュニティスペースを含む、ショートステイや小規模多機能型居宅を整備していく計画です。これまでショートステイには老健施設の空きベッドを利用して実施してきましたが、当苑から病院に入院した人の受け入れに備えてすべて埋めるわけにもいかず、計画的な運用ができませんでした。ショートステイを作ることにより、ご家族のニーズに計画的に応えることが可能になり、さらに小規模多機能型居宅介護の導入などで在宅支援を強化していきます」(岸川氏)。
 
岸川氏は、在宅復帰後の生活をいかにサポートしていくかが在宅復帰率向上で重要なポイントだとし、それが国の目指す地域包括ケアの実現に近づけることができるのではないかという。「在宅復帰率50%実現の自信はないが、複合的なサービスによる在宅支援強化がこれからの老健施設に求められる姿でしょう」と岸川氏は結んだ。

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