きになる”福祉の時事ニュース

Vol.2 公設民営 ─ 財政破綻した夕張で試みられる超高齢社会の医療福祉連携モデル

塚崎 朝子 氏 | ジャーナリスト

夕張市のこれからに日本の将来を見る ── 超高齢社会においては、医療と福祉を一体化させ、最低限の社会資源で支えていけるモデルが求められる。全国で最初に破綻した夕張市では、診療所を中心に医療福連携モデルが模索されている。

市の破綻とともに、夕張市立病院(179床)は、医療法人財団夕張希望の杜(理事長・村上智彦氏)を指定管理者とする公設民営の有床診療所(19床)と介護老人保健施設(40床)を併設した夕張医療センターとして再スタートした。
 
夕張市には、高齢者の一人暮らしが多い。地域に思い入れがあるからこそ、高齢になってもそこにとどまっているので、村上氏は、地域で安心して暮らし、安心して死んでいくことを支えるのが、地域医療の最大の目的だと考える。当初から、診療を在宅にシフトさせ、地域包括ケアの確立を目標に掲げている。

訪問診療で“終の棲家”支える

病院閉院時の入院患者の8〜9割は「区分1」で、介護の必要な人が社会的入院をしていたのが実態だった。既に稼働病床は20床を切っていた。このため、通院の手段に困っている人にも配慮して、新たに訪問診療が開始された。
 
医療センターは在宅療養支援診療所の届け出をして、訪問歯科診療、在宅リハビリテーションも実施している。09年末には訪問先が108軒にまで増加した。市内の特別養護老人ホーム(110床)や2つのグループホームの嘱託医も引き受けており、24時間体制で支援している。
 
いよいよ終末期になっても、慌ただしい救命措置を施すことはほとんどなくなり、替わりに在宅や施設で看取る件数が増えた。住み慣れた自宅はもちろん、施設もまた安心して入所し安心して死ねる“終の棲家”になった。

市民の協力で命のバトンを普及

安心の町づくりには市民も一役買っている。介護支援専門員の三島京子氏が提案し、「ゆうばり再生市民会議」が中心になって「命のバトン」を普及させている。書類に血液型や持病などの医療情報に加え、親族の連絡先を記入して筒状のプラスチックケースに収め、冷蔵庫に保管してもらう。玄関ドアの内側には専用のシールを張り、キット保管の目印にする。いざという時に、駆けつけた人がすぐに必要な情報を確認できる。
 
また、虚弱な高齢者には介護保険の認定を受けてもらい、訪問看護の頻度を増やすことを進めている。看護師が定期的に訪ね、安否確認を含めたケアを実施することができるようになる。
 
一方、元気な高齢者には積極的に働いてもらっている。センターには、消防署OBでボイラー技士資格も持つ70代の職員が勤務する。年金暮らしなので給料が抑えられる一方、モチベーションは高い。医療費も介護費もかからず、税収増にも貢献できるという発想だ。
 
「あの夕張でもできたのなら、うちでもできる」と思ってもらえれば、全国に先駆けて破綻した意味もあるのだろう。
 

2010年5月20日執筆

Vol.2 公設民営 ─ 財政破綻した夕張で試みられる超高齢社会の医療福祉連携モデル
つかさき・あさこ プロフィール
読売新聞記者を経て、医療・医学、科学・技術分野のジャーナリスト。経営学修士(MBA)、医療管理学修士。週刊エコノミストで「大人の悠遊 からだチェック!」、メディカル朝日で「命を紡ぎ出す〜再生医療の現場から」連載中。著書に『看護のための経営指標みかた・よみかた超入門』(共著、メディカ出版)ほか。東京医科歯科大学大学院医療政策学博士課程在籍。

補足資料ナナメ読み

夕張市

北海道の南に位置する南北35kmの広い市で、最盛期の1960年には市内17カ所に炭鉱があり、現在の10倍に当たる11万7000人が暮らしていた。大半は炭鉱労働者とその家族で、命と背中合わせの危険な仕事の代償として、炭鉱会社から住宅、水道、電気、ガス、医療などの生活インフラがすべて無償で支給されていた。17件あった映画館も無料だった。その後、「石炭から石油」へのエネルギー転換の波が押し寄せ、相次ぐ事故もあって炭鉱は次々と閉鎖された。市は「炭鉱から観光へ」を合い言葉に脱皮を図ろうとしたが借金が膨らみ、2007年3月に財政再建団体に転落し、18年がかりで再建の途上にある。