きになる”福祉の時事ニュース

Vol.5 行動規範「クレド」を浸透、機能させるには

塚崎 朝子 氏 | ジャーナリスト

理念やビジョンをトップダウンで下ろしてくるのではなく、「クレド」と呼ばれる行動指針やミッションを定めて、浸透させている企業がある。従業員自らがボトムアップで作成する場合も多く、昨今は社会福祉法人や医療法人でも導入する組織が現れ始めた。

 一般企業に比べて、非営利組織である学校法人や社会福祉法人などでは、そのビジョンや経営理念を打ち出しやすい。実際、多くの社会福祉法人などでは、朝礼時にこれらを唱和することが、日常的な光景ともなっている。しかし、職員が理念をそらんじるまでになっていたとしても、本当に自分のものとして考え、自分の行動に落とし込むことができているかは別の問題だと言えるだろう。
 
 クレドとは、ラテン語で「信念」「信条」を意味する。企業におけるパイオニアは、1943年にアメリカの大手ヘルスケア企業、ジョンソン・エンド・ジョンソン社が制定した「我が信条」(Our Credo)とされる。顧客満足度の高さで有名なホテル・チェーンのリッツ・カールトンのクレドも有名である。自らの信念や価値観を宣言したもので、単にお題目だけでなく、行動指針となるよう、カードや冊子にして社員が携帯していることが多い。 
 
 日本でも、クレドを採用する企業が増えている。通販大手のジャパネットたかたでは2006年、全社員に対してアンケートを行い、各部署で大切にしたいこと、守るべきことなどを話し合った結果を総合して、名物社長がかかわることなしに、社員たちがクレドを作り上げた。プロ野球でもここ数年、西武や楽天などの球団がクレドを制定し、小型の行動規範集を選手・従業員全員が携行している。

 

クレドを常に手元に置き表彰も

 
 福祉業界では、05年に設立された社会福祉法人善光会(東京都大田区)が、概念的な理念を、実際の職員の行動の拠り所にまで落とし込んだ10カ条のクレドをまとめている。サービス提供の姿勢、自分たちの働く姿勢を、日常的で平易な言葉で表しているのが特徴。職員の誕生日には、クレドがプリントされたTシャツやエコバッグを贈っている。 
 
 また、社会福祉法人順明会の特別養護老人ホーム、ジャルダン・リラ(愛知県豊川市)のクレドは、「私たちは、高齢者の尊厳を尊び心のこもった関わり、安心・安全・安寧の生活を送るための支援をもっとも大切な使命とこころえています」で始まる3カ条から成っている。これに照らし、優れたサービスを行った職員を年間で表彰する制度も設けられている。
 
 クレドは行動のルールとなるものだが、それで縛って管理を強化するのではなく、組織のバックボーンとして、スタッフ自らがそれに照らして自主的に行動を起こせるようなツールに高めなくてはならない。このため、カード状にして常に手の届く所に置いたり、定期的にスタッフが話し合う場を設けたりすることに加えて、適切に評価するための仕組みも大切ではないかと考えられる。

Vol.5  行動規範「クレド」を浸透、機能させるには
つかさき・あさこ プロフィール
読売新聞記者を経て、医療・医学、科学・技術分野のジャーナリスト。経営学修士(MBA)、医療管理学修士。週刊エコノミストで「大人の悠遊 からだチェック!」、メディカル朝日で「命を紡ぎ出す〜再生医療の現場から」連載中。著書に『看護のための経営指標みかた・よみかた超入門』(共著、メディカ出版)ほか。東京医科歯科大学大学院医療政策学博士課程在籍。

補足資料ナナメ読み

【ジョンソン・エンド・ジョンソン社では】

60年余りの歴史を持つ「我が信条(Our Credo)」は、A4判1枚というコンパクトな文書に、顧客、社員、地域社会、そして、株主という4つのステークホルダー(利害関係者)に対する責任をまとめたもので、3代目社長が起草した。これが真価を発揮したのは1982年、解熱鎮痛薬タイレノールに何者かによって毒物が混入された事件だ。同社は、クレド1行目にある「我々の第一の責任は、我々の製品およびサービスを使用してくれる医師、看護師、患者、そして母親、父親をはじめとする、すべての顧客に対するものであると確信する」に照らし、積極的な情報開示を行い、直ちに全製品を回収し、危機を克服した。