きになる”福祉の時事ニュース

Vol.6 魅力ある職場づくりを目指しフィッシュ哲学で士気向上

塚崎 朝子 氏 | ジャーナリスト

長引く景気低迷で職を求めている人は多いにもかかわらず、福祉・介護分野の事業所は慢性的に人材確保に苦労していているというミスマッチが生じている。一部の医療機関では、組織の活性化を目指し、新たなマネジメント手法を採り入れて実績を上げている。

 東京慈恵会医科大学附属病院では2002年に死者を出す医療事故が発生。士気が低下している職員を励まそうと、看護部が「フィッシュ哲学」を導入した。
 

 フィッシュ哲学はその名の通り、アメリカ西海岸・シアトルの魚市場で生まれた。「Play(遊ぶ)」「Make Their Day(人を喜ばせる)」「Be There(注意を向ける)」「ChooseYour attitude(態度を選ぶ)」といった4つのマインドを持って仕事に取り組んでみると、3Kと言われ士気が低かった問題職場が、ピチピチと生きの良い職場に変身した。
 

 「遊ぶ」は、楽しく仕事ができるよう遊びの要素を取り入れること。「楽しませる」は、顧客を喜ばせること。「注意を向ける」は、目の前に顧客が来たら、そのひとりに対して注意を向けること。「態度を選ぶ」は、常にポジティブな態度で仕事に向かうということ。フィッシュ哲学は、アメリカで企業を中心に広まり、医療や福祉の場にも導入されている。
 

離職者やクレームが大幅に減少

 
 日本の医療機関では、長崎・福岡・熊本を中心に医療・福祉施設を展開する特定医療法人青洲会グループも取り組みが早く、06年、アメリカの病院にスタッフが研修に旅立った。そこで目にしたのは、赤ちゃんが生まれれば決まった音楽を流し、病院全体で祝福する。患者が亡くなった場合も音楽を流し、その人を敬う。転倒しそうな患者さんには、赤色の室内履きを履いてもらい、皆で気を配る……。
 

 同院では、フィッシュ実践に多職種のチームで取り組んだ。イメージキャラクターを作成し、白衣に替わりカラフルなユニフォームを着用。検査部では、各人が競い合ってパンフレットを作成した。月1回の朝礼で、前月にフィッシュ・マインドを生かして患者サービスに努めた職員の表彰も始めた。病棟内のボードには、相手を認めよう、褒めようというメッセージが連なる。意欲は向上し、コミュニケーションも大幅に改善した。さらに劇的な効果があり、風通しの良い職場ということが定着し、看護師の離職が激減した。「スタッフの態度が冷たい」という患者からのクレームも大幅に減った。
 

まずスタッフが楽しむことから

 
 フィッシュ哲学は、サービス向上を目的としたり、顧客(利用者)を癒すために知恵を絞ろうという取り組みとは異なる。飾り付けも音楽でも、まずはスタッフ自らが楽しんで癒やされることだ。
 

 スタッフが落ち込んでいたり、不快感を抱いていれば、そうした雰囲気が利用者にも伝わってしまう。気持ちをうまく切り替え、ゆとりが持てるようになれば、確実にサービス改善にもつながる。

Vol.6  魅力ある職場づくりを目指しフィッシュ哲学で士気向上
つかさき・あさこ プロフィール
読売新聞記者を経て、医療・医学、科学・技術分野のジャーナリスト。経営学修士(MBA)、医療管理学修士。週刊エコノミストで「大人の悠遊 からだチェック!」、メディカル朝日で「命を紡ぎ出す〜再生医療の現場から」連載中。著書に『看護のための経営指標みかた・よみかた超入門』(共著、メディカ出版)ほか。東京医科歯科大学大学院医療政策学博士課程在籍。

補足資料ナナメ読み

【フィッシュが生まれたアメリカでは……】

フィッシュ哲学が生まれたのは、イチロー選手が所属する大リーグ、マリナーズの本拠地シアトルにある「パイク・プレース・マーケット」という魚市場だ。シンプルながら本質的な4つマインドに基づいて、魚を投 げるパフォーマンスで、自分たちも楽しみ、客も喜ばせている。アメリカでは、フィッシュ哲学が、軍、自動車メーカー、IT企業から大手ハンバーガーチェーンに至るまで、幅広い職種のマネジメントに採用されて いる。その後、書籍は日本語を含む10数カ国語に翻訳され、従業員教育用にビデオ教材も作成されるなど、いろいろと新たなビジネス展開にもつながっている。