きになる”福祉の時事ニュース

Vol.7 介護職のたん吸引の法制化へ チームの役割分担を議論する時

塚崎 朝子 氏 | ジャーナリスト

 2010年9月、菅直人首相が、たんの吸引や胃ろう処置などの医療行為を介護職員
ができるようにするための法整備を急ぐよう指示を出したことで、年明けの通常国会への関連法案提出に向けて準備が進められている。

 政府の規制改革会議などの流れを受けて、10年4月に医政局長通知が出され、特別
養護老人ホームにおいては、一定の条件の下で、介護職員がたんの吸引や胃ろうの処置の一部を実施することができるようになっている。
 
 超高齢時代にあって、医療処置が必要な要介護者は増加している。特養では夜間の看護職員が配置されていないため、早朝や夜間における胃ろうなどの経管栄養への対応や痰の吸引は困難だった。実際には、法的な裏付けのないままに介護職員がたんの吸引などをするか、もしくは医療ニーズが高い人は受け入れを断らざるを得ない状況が続いていた。
 
 在宅の場合には、家族であればこうした医療処置ができ、ホームヘルパーなどの介護職なども容認されているのに、施設ではできないというのは合理的ではない。一定の研修を受けることで同等以上の安全性は確保できるだろうというのは、妥当な判断だと言える。
 
 しかし、通知は「当面のやむをえず必要な措置」という位置付けである上、示された実施要件は、
 
 ①看護職員との連携の下、嘱託医による承認を得た介護職員による実施
 ②入所者本人・介護職員の同意
 ③看護職員・介護職員に対する研修の実施
 ④安全性確保のための体制整備
 
などで、施設にはハードルが高かった。
 

背景には介護業界の人手不足

 
 今回これをさらに一歩進めて法制化で追認しようという背景には、介護現場の人材難
もあるとされる。有効求人倍率は 1.23倍(10年7月)にとどまる。看護師の仕事を介護職員が分担できれば、人手不足をカバーできるだろうと見込まれている。また、違法
ギリギリの行為である医療処置を介護職員が行わざるを得ないために負担が増え、ストレスから離職の一因ともなっているとすれば、それを回避する意味でも有用だ。医学的管理によらずとも、すべての介護職員にこうした医行為が可能になれば、介護付有料老人ホームやグループホームなどでも医療ニーズが高い人の受け入れが可能になることも期待される。
 
 本来は、特養の看護職員の配置基準の見直しをすることが医療ケアの充実への道筋であるはずだが、慢性的な人手不足に陥っているのは介護職だけでなく、看護職も同様だ。低賃金や過重労働に対する改善策が講じられないことには、抜本的な解決は難しい。
 
 1948年に、医師法と保健師助産師看護師法が施行され、医師と看護師の業務基準
が定められた時に、介護福祉士という職種はなかった。新たな医療専門職が増えてい
る中で、医師と看護師の役割分担、看護師と介護福祉士との役割分担について、チー
ムとして見直すことが必要だ。

Vol.7  介護職のたん吸引の法制化へ チームの役割分担を議論する時
つかさき・あさこ プロフィール
読売新聞記者を経て、医療・医学、科学・技術分野のジャーナリスト。経営学修士(MBA)、医療管理学修士。週刊エコノミストで「大人の悠遊 からだチェック!」、メディカル朝日で「命を紡ぎ出す〜再生医療の現場から」連載中。著書に『看護のための経営指標みかた・よみかた超入門』(共著、メディカ出版)ほか。東京医科歯科大学大学院医療政策学博士課程在籍。

補足資料ナナメ読み

【規制改革会議】

内閣府設置法に基づく内閣府本府組織令38条に基づいて、中央行政にかかわる制度・政策を全般的に洗い直して、規制の撤廃や緩和、変更を推進するために、2001年4月に内閣府に設置された。10年3月末で任期を満了し、行政刷新会議の規制・制度改革に関する分科会に引き継がれた。同分科会で医療・介護分野の調査を行うライフイノベーション・ワーキングループでは、その検討課題として、保険外併用療養の範囲拡大、医行為の範囲の明確化、特別養護老人ホームへの民間参入拡大など19項目、中期的検討項目には、地域医療計画・病床規制のあり方、医薬品広告規制の緩和など、8項目が挙げられている。