きになる”福祉の時事ニュース

Vol.9 高齢者の口腔ケアの重要性 QOLや生命予後を左右する

塚崎 朝子 氏 | ジャーナリスト

身体疾患に合併して生じる歯科的な問題は多い。口腔ケアが十分なされていると、高齢者のQOLや生命予後が向上することは知られており、医科と歯科の密接な連携が求められている。

 口腔ケアは、病院内や施設においては主として看護師が担うが、在宅では家族や本人、ヘルパーの役割となる。しかしながら、歯科衛生士による専門的な口腔ケアが必要とされる高齢患者は多い。
高齢者は摂食・嚥下障害を伴うことが多いため、口腔ケアが不十分だと、口腔内が汚染され、誤嚥性肺炎に直結しやすいことはよく知られている。脳血管疾患の後遺症や頭頚部がんの術後などでは特に重要で、摂食・嚥下リハビリテーションを含めて、歯科に介入してもらうことで、こうしたリスクを低減させられる。

 また、末期がん患者では、口腔乾燥を訴える患者が多いとの報告がある。口内細菌が増加するとトラブルの原因になるだけでなく、患者は不快感を覚える。また、痩せて顎の形が変形し、義歯が不適合なれば、最期まで口から食べたいという思いを妨げることにもなる。口腔ケアは、緩和ケアの一貫と位置付けられてもよいものだが、施設においても十分なされているとは言えず、在宅ではなおさら手が回りかねている。
 

在宅における歯科医療を推進

 
 東京都歯科医師会が会員を対象とした調査では、在宅医療に取り組んでいる歯科医は3分の1以上いたものも、症例数は半数以上が1桁台にとどまっていた。その中で、豊島区では、地域ぐるみで、高齢者・障がい者や在宅での口腔ケアに先進的に取り組んでいる。
 
 区歯科医師会では、区からの委託を受け、障がいがあって十分な歯科治療を受けられなかった人、寝たきり高齢者で一般歯科治療所では受診困難な人を対象にした歯科診療所を開設している。また、65歳以上で在宅の寝たきりの人を対象にした訪問診療を実施。さらに、歯科衛生士が、障がいのある人のための歯科相談・歯科衛生指導を行うほか、寝たきりの高齢者宅を訪問して、義歯の手入れ方法、歯周病予防のための歯磨き方法などの専門的な指導もしている。
 
 医科・歯科・薬科の緊密な連携も活発で、「豊島区在宅医療推進会議」を設置して、医療、介護、行政が連携して区民を支えるネットワークづくりを進めており、三師会(豊島区医師会、歯科医師会、薬剤師会)が核になっているのが特徴である。東京都の「在宅医療ネットワーク推進事業」(2008~09年)に採択された事業を区が引き継いで、後押ししている。
 
 10年12月に厚生労働省が発表した国民健康・栄養調査(09年)の結果では、75~84歳以上の高齢者で、「自分の歯を20本以上維持している人」は26.8%と、4人に1人を超えた。国を挙げた「8020運動」の効果ともされ、今後は自分の歯を維持する高齢者が増加すると考えられるが、口腔ケアへの関心はなお高まることが期待される。

Vol.9 高齢者の口腔ケアの重要性  QOLや生命予後を左右する
つかさき・あさこ プロフィール
読売新聞記者を経て、医療・医学、科学・技術分野のジャーナリスト。経営学修士(MBA)、医療管理学修士。週刊エコノミストで「大人の悠遊 からだチェック!」、メディカル朝日で「命を紡ぎ出す〜再生医療の現場から」連載中。著書に『看護のための経営指標みかた・よみかた超入門』(共著、メディカ出版)ほか。東京医科歯科大学大学院医療政策学博士課程在籍。

補足資料ナナメ読み

【8020運動】

1989年から、厚生省(当時)と日本歯科医師会が推進している「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」とする運動。20本以上の歯を持っていると、ほとんどの食品が食べられて食生活に満足が得られるが、それ未満の人では、かんで食べることに支障を来すとされる。また、20本以上の人は活動的で、寝たきりに陥ることも少ないなど、QOLについても多くの報告がなされている。  国民健康・栄養調査(厚労省)では、75~84歳で「自分の歯が20本以上ある」と回答した人は、11.5%(1999年)、23.0%(2004年)、26.8%(2009年)と確実に増加している。過去1年間に、歯石除去や歯科検診を受診した人の割合も増えており、歯の健康に関する意識の向上が伺える。