きになる”福祉の時事ニュース

Vol.11 糖尿病で認知症のリスク増加 高齢患者増加でケア充実も課題

塚崎 朝子 氏 | ジャーナリスト

日本人における長期の疫学調査、「久山町研究」から、糖尿病が認知症のリスクとなることが明らかになった。一方、高齢糖尿病患者の急速な増加により、ケア体制の充実も求められている。

九州大学医学部第2内科(現・病態機能内科学)では1961年から、人口約8000 人の福岡県糟屋郡久山町において、毎年の健康診断に加えて、40歳以上の全住民を対象にした一斉健診を5年置きに実施しており、50年を迎えた。
 
元々は日本人の脳卒中の病態解明が目的だったが、今では対象が生活習慣病全体へと広がり、61年、74年、88年、2002年の各健診を受けた住民を、それぞれ第1~第4の集団として追跡し、生活習慣病についての日本人のエビデンスを発信し続けている。
 
血圧管理の対策が一段落した後、88年に40~75歳の全住民に糖負荷試験を実施してみると、11%が糖尿病と診断された。当時、日本糖尿病学会が3~5%と推定していた有病率の数倍に達していた。
 
糖尿病は、心血管障害のリスクになる。血圧管理で脳出血が減少したにも関わらず、脳こうそくが増え、脳卒中全体では効果が相殺されていたわけだ。
 
さらに90年代以降になると、糖尿病は、認知症やがんの発症においても有意な危険因子であることが明らかになった。糖尿病に至らない耐糖能異常の段階であっても、既に胃がんのリスクが高いという結果になった。また、認知症では、糖尿病やメタボリック・シンドロームの合併などにより、動脈硬化から脳血管性認知症を引き起こすだけでなく、アルツハイマー病も増加させていた。
 
久山町研究の特徴は、健診受診率のみならず剖検率も80%と高いことであり、認知症の病型判断もきちんとつけることができる。65歳以上の高齢者における認知症の有病者の割合は、実に8人に1人に達していた。
 
糖尿病治療におけるケア体制の課題も浮上している。千葉県立東金病院においては、インスリン療法中の患者に占める70歳以上の高齢者の割合は3人に1人を超えており、内分泌機能が低下していくにつれ、70代や80代になってから新たにインスリンを導入したり、継続しなくてはならない患者が増えている。インスリン注射を行っている患者本人、あるいは、老老介護で介護を行っている配偶者が、認知症などによって注射を継続することが困難になったために、血糖コントロールが悪化して、緊急で入院する事態に陥るケースが少なからず発生していた。
 
血糖コントロールが改善して回復しても、ほとんどの患者はインスリン療法を中止するまでには至らず、退院後は施設入所や、転居して家族との同居に至るケースも多い。地域における在宅ケア支援体制が課題だが、多忙な訪問看護師だけでは手が回り切らない。
 
今後インスリン療法が必要な高齢者がさらに増加が見込まれる中で、同院の医師たちは、在宅ヘルパーなどについてのインスリン注射業務の拡大などの検討を求めている。

補足資料ナナメ読み

【疫学調査】

共通する因子を持ち観察対象となった集団(コホート)を対象として、健康状態や疾患の分布・増減などを調査する方法。疾患の原因と思われる因子を設定し、統計的手法を用いて、因果関係や危険の度合いを推定することなどを目的として行われる。生活習慣病については、アメリカで循環器疾患の疫学調査として始まったフラミンガム研究(1948年開始)、日本など文化圏の異なる7カ国にまたがるSeven Countries Study(57年)などが草分け。日本では久山町研究(61年)に先立ち、田主丸町研究(福岡県久留米市、58年)があり、端野・壮瞥町研究(北海道北見市・壮瞥町、76年)、大迫研究(岩手県花巻市、86年)、都市型の吹田研究(大阪府吹田市、89年)などが歴史がある。結果は予防対策に活かされている。