きになる”福祉の時事ニュース

Vol.13  災害弱者搬送に医療支援船  ~医療の視点編~

塚崎 朝子 氏 | ジャーナリスト

災害が発生した際に、自力での避難が困難な高齢者や障害者、難病患者など、いわゆる災害弱者(災害時要援護者)を船で搬送する構想が検討されている。さらに治療もできる病院船構想も提案されている。

災害時に必要とされるのは、直接被災して負傷した人のための救命医療ばかりではない。新潟県中越地震(2003年)においては、インフルエンザなどの感染症、脳血管障害、循環器系などの災害関連死が総死者数の約7割を占め、災害弱者を直撃した。また、東日本大震災では病院も被災し、慢性腎不全などの人工透析患者の治療施設の確保が困難になった。阪神・淡路大震災の教訓から、急性期医療が充実する一方、災害弱者への対策の遅れが指摘されている。
 
震災を経験した兵庫県では、神戸大学と兵庫県透析医会が中心になり04年頃から、近海での災害時に人工透析が必要な患者を船で被災地外に移送する「災害時医療支援船事業」を検討しており、同大の練習船「深江丸」(449t)などを用いて実際に患者を搬送する訓練を重ねている。震災後15年を機に、現在は国土交通省、神戸市などの船舶25隻も参加し、対象患者も他の難病にも広げた。さらに、災害時に船や港で治療などを行う「ドクターシップ」も提案されている。
 

アメリカには1000床の病院船

 
戦前・戦中は、日本にも病院船があった。有名なのは、横浜港に係留され博物館となっている氷川丸で、戦前は北米とを結ぶ豪華客船だったが、戦中は病院船として徴用され、負傷兵を多数運んだ。
 
世界には病院船を有している国も多い。アメリカには、石油タンカーを改装した最大級の病院船が2隻あり、米海軍が所有している。うちコンフォートは、平時にはメリーランド州ボルチモア湾に停泊しており、災害救助に供される。病床数1000床に11の手術室を備えており、医療用品を搭載し、運用指令から5日以内に医療スタッフを含めた乗員を整えて運用準備を完了。約90日間行動することができる。
 
10年1月12日に起きたハイチ地震(M7.0)では、20日にハイチ沖に到着して、整形外科を中心として重症者への治療を開始している。また、01年の9.11同時多発テロ事件発生時は、14日にマンハッタンに到着、外傷や骨折、呼吸器疾患の治療に当たるほか、心理の専門家がメンタルヘルスの相談にも応じた。
 
一時的な避難所としても使えるし、世界有数の海洋国である日本でも自国の災害に備え、また近隣諸国への災害援助のためにも、病院船を所有したり、客船をチャーターして病院船として使うべきだという意見は少なからずある。日本学術会議でも05年、「大都市における地震災害時の安全の確保について」として病院船の建造を勧告しており、実現に向けて署名活動を開始している団体もある。
 
東日本大震災のように被害が広域化し、津波で多くの港湾が破壊されれば、こうした構想は万全とは言えないが、大量輸送ができて、しかも宿泊施設を備えた船舶の可能性は考慮されてもよい。

Vol.13   災害弱者搬送に医療支援船  ~医療の視点編~
つかさき・あさこ プロフィール
読売新聞記者を経て、医療・医学、科学・技術分野のジャーナリスト。経営学修士(MBA)、医療管理学修士。週刊エコノミストで「大人の悠遊 からだチェック!」、メディカル朝日で「命を紡ぎ出す〜再生医療の現場から」連載中。著書に『看護のための経営指標みかた・よみかた超入門』(共著、メディカ出版)ほか。東京医科歯科大学大学院医療政策学博士課程在籍。

補足資料ナナメ読み

【災害弱者】

防災行政上は、「災害時要援護者」と呼ばれ、1991年度版『防災白書』では、以下のいずれか1つでも当てはまる人とされる。①自分の身に危険が差し迫った場合、それを察知する能力が無い、または困難な者、②自分の身に危険が差し迫った場合、それを察知しても適切な行動をとることができない、または困難な者、③危険を知らせる情報を受け取ることができない、または困難な者、④危険を知らせる情報を受け取ることができても、それに対して適切な行動をとることができない、または困難な者。具体的には、障害者、傷病者、高齢者、乳幼児・子供、外国人、妊婦、旅行者などが想定されている。全国の市町村で、内閣府や総務省などの指導に基づいて、災害弱者の避難支援計画や災害時要援護者名簿の整備が進んでいる。