きになる”福祉の時事ニュース

Vol.15  被災者を支える心のケア   ~医療の視点編~

塚崎 朝子 氏 | ジャーナリスト

災害後1~2カ月が経つ頃から、被災者の心の状況は変化しやすくなってくる。被災地に駆けつける医療者も、被災者の心を支えるためにはコツが要る。

被災者を支える心のケア 専門家任せにせず・拙速にせず

 
東京都保健福祉局がまとめた「災害時の『こころのケア』の手引き」には、被災者の心理が段階的に改善していくプロセスについて解説されている。
 
まず、災害直後は「呆然自失期」であり、恐怖体験のために無感覚、感情の欠如、茫然自失という状態に陥る。この間は、衣食住を確保することが大切だ。続く1週間から数カ月は、「ハネムーン期」と呼ばれる。被災者は、劇的な災害の体験を共有してくぐり抜けてきたことで、互いに強い連帯感で結ばれ、希望を託して互いに助け合う。一見、元気に見えることもあるが、頑張りすぎないようにブレーキをかける必要もある。
 
さらに先には、「幻滅期」が待ち受ける。災害発生数週間後から半年余り経って、復旧モードに入る頃だが、被災者の忍耐は限界に達し、援助の遅れや失政への不満が噴出する。やり場のない怒りに駆られ、トラブルも起こりやすい。無気力やうつが出始めていないか、アルコール問題などにも注意を払わなくてはならない。そして、「再建期」は、復旧が進んで生活のメドが立ち始める。フラッシュバックが起こることはあっても、徐々に回復に向かっていく。
 
生活が復興していく度合いも様々なら、人が心を回復するペースも違う。復興から取り残されたり、精神的な支えを失った人の場合には、ストレスが持続することも十分あり得る。
 

炎が立ち上がってくるのを待つ

 
東日本大震災では、多くの医療者が医療支援に駆けつけている。直後の数日間は救急医療が文字通り命綱となるが、その後は内科系、とりわけ慢性疾患へのニーズが高まる。並行して心のケアにも対処しなくてはいけない。心を支えることはなかなか難しいため、当座は都道府県ごとに組織された精神医療の専門家チームがおおむね1週間単位で被災地に滞在し、避難所の巡回や往診に回っている。
 
しかし、心のケアチームのメンバーであるかにかかわらず、医療者、そして市民も被災者に寄り添うことが大切なのは言うまでもない。精神科医で関西学院大学教授の野田正彰氏は、東日本大震災を含め、これまで何度も内外の被災地を訪れ面接をした経験から、被災者をろうそくにたとえる。
 
 「災害地では、個々の人たちの生きる気力や生命が小さくなっている。できるだけ手をかざして、少しでも風が来ないようにして、消えかかった炎がゆっくり立ち上がっていくのを待つ。油を注げばぽっと燃えるというような発想はとってはいけない」と語る(2011年4月18日、同大における講演にて)。
 
生活のメドも立たない時点で、十分な想像力を働かせない人たちが、外部から「日本はひとつ、頑張ろう」と、大合唱であおり立てる復興ムードには懸念を呈している。こころのケアに拙速は禁物だろう。

Vol.15   被災者を支える心のケア   ~医療の視点編~
つかさき・あさこ プロフィール
読売新聞記者を経て、医療・医学、科学・技術分野のジャーナリスト。経営学修士(MBA)、医療管理学修士。週刊エコノミストで「大人の悠遊 からだチェック!」、メディカル朝日で「命を紡ぎ出す〜再生医療の現場から」連載中。著書に『看護のための経営指標みかた・よみかた超入門』(共著、メディカ出版)ほか。東京医科歯科大学大学院医療政策学博士課程在籍。

補足資料ナナメ読み

【心のケアチーム】

阪神・淡路大震災(1995年)以降、災害時の心のケアの重要性が広く認識され、精神科医や精神保健福祉士、臨床心理士などがチームを構成し、早期から組織的な対応が取られるようになってきている。東日本大震災では、災害対策基本法第30条に基づいて、厚生労働省に「心のケアチーム」の派遣斡旋の要請がなされ、独立行政法人国立精神・神経医療研究センターおよび各都道府県との間で早急な調整が行われた。3月後半には、派遣可能な期間のみ緊急に活動する体制として35チームを確保し、順次、被災県にて活動を開始した。4月以降は、同一地域で同一都道府県等のチームが継続的に支援 することを原則に、改めて各都道府県と調整が行われ、40チーム以上が確保されている。