きになる”福祉の時事ニュース

Vol.18  年金暮らしの高齢者は幸福か   ~介護の視点編~

塚崎 朝子 氏 | ジャーナリスト

年金暮らしの高齢者は幸福か 新生ロシア20年目の年金改革
1922年に、世界初の社会主義国として成立した旧ソ連は、労働者のユートピアを目指し、計画経済の下に8時間労働や有休休暇の制度を世界で初めて導入、医療や教育は無償と [...]

年金暮らしの高齢者は幸福か 新生ロシア20年目の年金改革

1922年に、世界初の社会主義国として成立した旧ソ連は、労働者のユートピアを目指し、計画経済の下に8時間労働や有休休暇の制度を世界で初めて導入、医療や教育は無償という実験国家だった。
 
年金受給開始の権利を得るのは、男性が60歳(勤務年数25年が条件)、女性は55歳(同20年)。教員や医療関係者、炭鉱や鉄鋼などの過酷な労働環境や厳しい気象条件などの場合、さらに低年齢からの受給も可能だった。受取額は、退職前の一定期間の収入に応じて決まった。
 
私がロシアを初めて訪れたのは92年、体制の激変でハイパーインフレが進行し、社会は混乱の極みにあった。貨幣価値は暴落して預金は目減りし、年金の改定は追いつかず、既に年金生活者だったKさんは、基礎食料品を買うにも国営商店の行列に並ばなくてはならなかった。
 
失業者も多く、特に男性の寿命は一時、50歳代後半にまで急降下し、多くが年金受給年齢前に亡くなった。近年では男女とも右肩上がりに回復し、今後は後期高齢者も増加すると見込まれている。
 

税金から積み立て式に移行

 
国家予算から拠出されていた年金は、ソ連崩壊後は医療とともに保険化されており、雇用者から徴収した統一社会保障税から分配された年金基金が財源になっている。現在の年金受給者は約3000万人以上と、国民の5人に1人を超えており、健康施策が奏功したことは喜ばしいことだ。12年に大統領選挙を控えていることもあり、政府はインフレ率を上回る年金の増額を試みているが、財源確保の面では厳しい状況が待ち受けているはずだ。
 
現在進行中の年金制度改革では、財源を税金から積み立て基金方式へと移行中で、最低限の保障額に、給与から天引きされた積立額に応じた上積み分を加え、いわゆる2階建てになる。年金生活者は、公共交通機関は無料、住宅・公共料金も割引という恩恵があったが、これらは廃止され、代わりに年金が増額される。
 
数百人が居住できる大規模な福祉施設はあり、特別養護老人ホームに障害者施設、デイケアセンターやケアハウス、時には保育園などを組み合わせた施設が、郊外に散見される。入居者は年金額の75%を居住費として天引きされ、25%のみを現金で受け取る仕組みだ。
 
間もなく80歳を迎えるKさんは息子も近くにおり、連日30℃を超える記録的猛暑の中でもエアコンの完備したアパートに暮らしており、ひと安心だった。しかし、サンクトペテルブルクの街角ではホームレスを見かけた。また、生計の足しにするためか、郊外のダーチャ(家庭菜園付きセカンドハウス)で育てた花や野菜を商う高齢者の姿もあった。高齢者が旧体制を懐かしむばかりでは、自由主義経済への移行は成功したとは言い切れないだろう。

Vol.18   年金暮らしの高齢者は幸福か   ~介護の視点編~
つかさき・あさこ プロフィール
読売新聞記者を経て、医療・医学、科学・技術分野のジャーナリスト。経営学修士(MBA)、医療管理学修士。週刊エコノミストで「大人の悠遊 からだチェック!」、メディカル朝日で「命を紡ぎ出す〜再生医療の現場から」連載中。著書に『看護のための経営指標みかた・よみかた超入門』(共著、メディカ出版)ほか。東京医科歯科大学大学院医療政策学博士課程在籍。

補足資料ナナメ読み

【ロシア連邦】

中世に成立し、帝政ロシアの流れを汲む歴史ある共和国国家。1817年のロシア革命を経て、69年間にわたって、周辺の10数カ国と共にソビエト連邦を形成していた。ベルリンの壁崩壊に象徴される東欧革命によりソ連が崩壊(91年)した後、ブラジル、インド、中国と並び、経済成長が著しい4大新興国に位置付けられ、世界一のエネルギー供給国でもある。日本の約45倍という世界一の国土に、世界第6位の1億4千万人余りの人口を擁する。合計特殊出産率1.16(99年)から1.54(2009年)と上向いてきたものの、人口は92年をピークとして日本を上回るペースで減少に転じている。平均寿命(10年)は男性63.03歳、女性は74.87歳。65 歳以上の高齢者の割合は13.3%(09年)にとどまるが、少子化・短命化の改善に伴って高齢化率も上がっており、今後は年金や医療の問題も深刻化すると見られる。