きになる”福祉の時事ニュース

Vol.20  自殺者3万人の8000人が高齢者   ~介護の視点編~

塚崎 朝子 氏 | ジャーナリスト

9月10日は、世界自殺予防デー。東日本大震災の犠牲者を上回り、日本の年間自殺者は3万人を超える。うち65歳以上の高齢者は8000人余りで、介護関係者も予防の担い手となる。

自殺者3万人の8000人が高齢者 介護関係者も予防の担い手に

 
東日本大震災から半年が経とうとし、復興の道筋ができつつある。内閣府は11年8月、初めて震災関連自殺の調査結果を発表したが、6月だけで16人が、震災が原因で自殺したと見られている。調査では、①避難所や仮設住宅、被災者の遺体安置所で発見された、②避難所や仮設住宅に居住していた、③被災地から避難していた、④震災の影響とする遺書や発言があった、などに該当する人を震災関連と見ており、実際に震災をきかっけに自殺した人はもっと多い可能性がある。
 
内訳では50代が6人、60代が5人、70、80代が各1人と、50歳以上が8割を占める。この調査が震災関連と見る基準からは外れるが、福島県南相馬市の緊急時避難準備区域に住んでいた93歳の女性が、6月に自殺していたことが報道された。「老人はあしでまとい」「いきたここちしません」「私はお墓にひなんします」……遺書には、長年慣れ親しんだ暮らしを失ったつらさがにじむ。
 

健康問題や閉じこもりがリスクに

 
被災地では、復興の傍ら、喪失感から脱しきれない人、心が折れてしまった人などを支えることは重要だ。内閣府は、仮設住宅入居に伴って孤立するリスクを指摘しており、保健師らによる訪問事業や心の健康相談を自治体が強化することを求めている。
 
しかし、自殺は被災地だけの問題ではないことも、改めて心しておかなくてはならない。日本の自殺者は毎年3万人のペースで推移し、8月に出された警察庁の統計では、11年も上半期だけで1万5885人に達していた。東日本大震災の被害者に匹敵する数で、未曾有の災害を上回る犠牲者の国難が、毎年日本で繰り返されているとも言える。
 
自殺死亡率(人口10万人当たり)が増加傾向にあるのは、働き盛りの自殺者が増えた影響が大きい。65歳以上高齢者の自殺者は1998年以降、ほぼ横ばいか緩やかな増加を示す。高齢者人口増加によって高齢者の自殺死亡率は減少傾向にあるが、人口10万人当たり30人前後で、なお多いことに変わりない。
 
高齢者の自殺の原因・動機では、6割以上に健康問題があり、経済・生活問題、家庭問題などがこれに続く。慢性疾患、家族へ負担をかけているという意識、近親者の死亡などによる喪失感や孤立などはリスク要因となる。背景には、うつ病などの精神疾患が潜んでいるが、精神科を受診していないことが多いという。
 
障害があるなど、自宅に閉じこもっていることもリスクとなる。内閣府では、自殺予防の早期対応の中心的役割を果たす人材として、介護支援専門員等も位置付けており、厚労省により、自殺予防に関する知識の普及が進められている。直接、介護に当たるヘルパーなどの職員も共有すべき問題であるのは言うまでもない。

Vol.20   自殺者3万人の8000人が高齢者   ~介護の視点編~
つかさき・あさこ プロフィール
読売新聞記者を経て、医療・医学、科学・技術分野のジャーナリスト。経営学修士(MBA)、医療管理学修士。週刊エコノミストで「大人の悠遊 からだチェック!」、メディカル朝日で「命を紡ぎ出す〜再生医療の現場から」連載中。著書に『看護のための経営指標みかた・よみかた超入門』(共著、メディカ出版)ほか。東京医科歯科大学大学院医療政策学博士課程在籍。

補足資料ナナメ読み

【自殺対策基本法】

日本の自殺者は、1998年から急増した。バブル崩壊後、97年頃は大企業の破綻も相次ぎ、厳しい不況に見舞われていた時期である。その後13年間連続して、年間3万人を超えた状態が続いている。政府は2005年末に、初めて自殺の総合対策を策定、以後10年間で自殺者数を2万5000人以下に抑える目標を掲げた。民間団体が中心となり10万人以上の署名を集めるなどの後押しがあって、06年に自殺対策基本法が施行された。同法の理念を踏まえ、07年には、指針となる自殺総合対策大綱が閣議決定された。中では、①自殺は追い込まれた末の死、②自殺は防ぐことができる、③自殺を考えている人は悩みを抱え込みながらもサインを発している、という3つの基本的な認識が示されている。また、世代ごとの特徴を踏まえた自殺対策を推進する必要性と各層に向けた取り組みの方向も盛り込まれている。