きになる”福祉の時事ニュース

Vol.21  自殺者3万人の背景に精神疾患   ~医療の視点編~

塚崎 朝子 氏 | ジャーナリスト

9月10日は、世界自殺予防デー。東日本大震災の犠牲者を上回り、日本の年間自殺者は3万人を超える。うち65歳以上の高齢者は8000人余りで、介護関係者も予防の担い手となる。

自殺者3万人の背景に精神疾患 地域連携や一般医の対応が鍵

 
厚生労働省は11年8月の社会保障審議会医療部会において、2006年に国の医療政
策の基本指針で重点対策が必要な疾病として定めた、がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病の4疾病に、新たに精神疾患を加える方針を了承した。07年に施行された改正医療法によって、都道府県が策定する医療計画では、4疾病と、同じく重点を置いた5事業(救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児救急医療を含む小児医療)ごとに、医療連携体制の構築など具体的な対策を盛り込むことになっている。13年の医療計画の見直しに向けて、精神疾患
についても対応が進むと見られる。
 
背景にあるのは、精神疾患患者、そして自殺者の多さだ。同省の調べでは、08年の精神疾患患者は323万人で1996年の218万人の1.5倍、国民病とされる糖尿病の237万人、がんの195万人をはるかに上回る。精神科の敷居はなお高く、治療を受けていない潜在患者も多くいると見られる。うつ病に加え、認知症や発達障害が急増。受診をためらっているうちに、悪化させるケースもある。
 
社会情勢とも相まって、自殺者は1998年以降、3万人を上回った状態が続く。背景には、うつ病、統合失調症、人格障害、アルコール依存症などの精神疾患があることが多い。今回、「5疾病」に位置付けられ、医療体制が整備されることは、自殺予防策としても前進が期待できる。
 

健康問題が原因の自殺が半数

 
8月に出された警察庁の統計では、自殺者は11年も上半期だけで1万5885人に達し、東日本大震災の犠牲者に匹敵する。未曾有の災害を上回る犠牲者を出す国難が、毎年日本で繰り返されているとも言える。今年は、震災関連の自殺も問題になっている。内閣府は8月、初めて震災関連自殺の調査結果を発表したが、6月だけで16人が、震災が原因で自殺したと見られている。
 
医師による自殺対策は、精神科の専門医だけでなく、一般医も重要な役割を果たす。自殺の原因・動機を見ると、約半数に「健康問題」があり、高齢者に至っては6割を超えている。
 
内閣府では、自殺予防の早期対応の中心的役割を果たす人材の第一に、かかりつけの医師等を位置付けている。世界保健機関(WHO)との共同による国内調査で、総合病院の内科外来受診者から無作為抽出した1555人を精神科医が診察したところ、精神科医がうつ病と診断した患者のうち、内科医がうつ病と診断していたのは19.3%だった。うつ病患者の多くが医療機関にかかりながら、適切な診断がなされていないと見られ、厚労省は08年度から精神科を専門としない医師を対象に「心の健康対応力向上研修」を実施、10年度からは児童思春期にも対応できるよう小児科医等も対象に加えた。

Vol.21   自殺者3万人の背景に精神疾患   ~医療の視点編~
つかさき・あさこ プロフィール
読売新聞記者を経て、医療・医学、科学・技術分野のジャーナリスト。経営学修士(MBA)、医療管理学修士。週刊エコノミストで「大人の悠遊 からだチェック!」、メディカル朝日で「命を紡ぎ出す〜再生医療の現場から」連載中。著書に『看護のための経営指標みかた・よみかた超入門』(共著、メディカ出版)ほか。東京医科歯科大学大学院医療政策学博士課程在籍。

補足資料ナナメ読み

【自殺対策基本法】

日本の自殺者は、1998年から急増した。バブル崩壊後、97年頃は大企業の破綻も相次ぎ、厳しい不況に見舞われていた時期である。その後13年間連続して、年間3万人を超えた状態が続いている。政府は2005年末に、初めて自殺の総合対策を策定、以後10年間で自殺者数を2万5000人以下に抑える目標を掲げた。民間団体が中心となり10万人以上の署名を集めるなどの後押しがあって、06年に自殺対策基本法が施行された。同法の理念を踏まえ、07年には、指針となる自殺総合対策大綱が閣議決定された。中では、①自殺は追い込まれた末の死、②自殺は防ぐことができる、③自殺を考えている人は悩みを抱え込みながらもサインを発している、という3つの基本的な認識が示されている。また、世代ごとの特徴を踏まえた自殺対策を推進する必要性と各層に向けた取り組みの方向も盛り込まれている。