きになる”福祉の時事ニュース

Vol.25  喫煙は予防可能なリスク   ~医療の視点編~

塚崎 朝子 氏 | ジャーナリスト

2010年10月のたばこ増税から1年。過去に例のない大幅増税の影響は確実に現れているが、なおなすべきことは多い。

喫煙は予防可能なリスク 医療のなすべき役割も増大

 
英国医学誌『Lancet』では11年9月に、日本の皆保険制度導入50周年を記念した特集号を発行して、日本が短期間で長寿社会を実現したことを高く評価している。しかし、「なぜ日本国民は健康なのか」という論文の中で、07年における予防可能な危険因子を比較評価した結果として、喫煙と高血圧を指摘している。喫煙の健康への悪影響が高齢層で蓄積しつつあり、喫煙関連死が増加傾向にある可能性に触れ、政策介入の必要として価格値上げによる喫煙規制の重要性を再認識することを説いている。
 
喫煙率低下の鍵が、値上げにあることは明らかだ。05年に発効したたばこの規制に関する世界保健機関枠組条約でも、需要の減少措置として価格政策を求めている。また、世界銀行は、たばこを10%値上げすれば、発展途上国で8%、先進国も4%需要が減ると見積もっている。
 

値上げは最強の禁煙対策を証明

 
日本たばこ産業が11年8月に実施した「全国たばこ喫煙者率調査」では、成人男女の喫煙率は16年連続で低下し、前年比2.2%減の21.7%と過去最低であった。下げ幅は例年の倍で、高齢化の進展、健康に関する意識の高まり、喫煙をめぐる規制の強化に比べて、前年に実施された増税・定価改定の影響が大きいと見られる。
 
全国の喫煙人口は、2279万人と推計され、前年から216万人減ったことになる。男女の内訳は、成人男性33.7%(前年比2.9%減)、成人女性10.6%(同1.5%減)である。1966年に成人男性の83.7%が喫煙者だったことを考えると劇的な変化だが、諸外国の中では、まだ高い。また、女性の減少は緩やかだ。
 
国立がん研究センターでも同月、「たばこと増税に関するインターネット調査」を実施しており、喫煙者の45.3%が「次の増税時には禁煙を考える」と回答。また、「1 箱いくらになれば禁煙するか」との問いには、35.5%が500 円、20.9%が600~700円がと答えている。
 
日本癌学会、日本呼吸器学会、日本循環器学会など18学会は禁煙推進学術ネットワークを構成しており、たばこ税大幅引き上げを求める要望書を厚生労働省に提出した。
 
喫煙習慣は嗜好の問題ではないとされる。たばこには中毒性物質が含まれており、摂取されたニコチンは大脳の快楽中枢に作用して、やがて身体的な依存状態にはまる。だからこそ、ニコチン依存症の治療には健康保険が適用されている。
 
中央社会保険医療協議会は、子どもが受診する医療機関では、受動喫煙の害を防ぐため、原則的に屋内全面禁煙とする方針を了承しており、12年度から診療報酬の要件になる見込みだ。また、厚労省がまとめた労働安全衛生法改正案では、すべての事業所と工場に全面禁煙もしくは空間分煙、健康診断における医師や保健師による検査を義務づけた。着々と進むたばこ対策に、医療の果たすべき役割は大きい。

Vol.25   喫煙は予防可能なリスク   ~医療の視点編~
つかさき・あさこ プロフィール
読売新聞記者を経て、医療・医学、科学・技術分野のジャーナリスト。経営学修士(MBA)、医療管理学修士。週刊エコノミストで「大人の悠遊 からだチェック!」、メディカル朝日で「命を紡ぎ出す〜再生医療の現場から」連載中。著書に『看護のための経営指標みかた・よみかた超入門』(共著、メディカ出版)ほか。東京医科歯科大学大学院医療政策学博士課程在籍。

補足資料ナナメ読み

【たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(WHO Framework Convention on Tobacco Control;WHO/FCTC)】

たばこの消費およびたばこの煙にさらされることが健康、社会、環境および経済 に及ぼす破壊的な影響から、現在および将来の世代を保護することを目的としている。職場等の公共の場所におけるたばこからの保護措置、消費者に誤解を与えない包装及びラベル表示、未成年者対するたばこ販売の禁止措置などの規制と、たばこの規制に関する国際協力について定めている。世界保健機関(WHO)の下で作成された保健分野における初めての多国間条約で、2003年5月のWHO総会において全会一致で可決され、05年2月に発効した。各国が個別に実施していたたばこ対策を一歩進め、自国内や国際的に実施するたばこ規制の枠組みを提供している。通称、たばこ規制枠組条約、または、たばこ規制枠組み条約と呼ばれる。