きになる”福祉の時事ニュース

Vol.27  受診時定額負担は先送り   ~医療の視点編~

塚崎 朝子 氏 | ジャーナリスト

2011年6月、政府・与党社会保障改革検討本部で決定された「社会保障・税の一体改革成案」に盛られていた「受診時定額負担」導入は、先送りが決まった。

受診時定額負担は先送り 2025年に向け改革待ったなし

 
社会保障・税の一体改革とは、世界に例を見ない急速な少子高齢化が進行する中、社会保障制度を根本から改革することと合わせ、消費税率を10年代半ばまで段階的に10%まで引き上げて必要な財源を確保しようというものである。
 
医療における改革の1つが「受診時定額負担」の導入で、併せて窓口負担が一定額を超えると払い戻される「高額療養費制度」拡充を当て込んでいた。
  
成案では、「2015年度ベースで公費1300億円」を捻出するとされていたが、厚労省による算定根拠は以下の通りである。入院外の外来受診(延べ日数)は、年間で約20億回(医科16億回、歯科4億回)ある。そこで、受診者に、今までの自己負担に加えて100円余分に払ってもらえば、2000億円になる。
 
厚労省には、戦前の内務省時代、医療社会保険の骨格を作った数理技官名に由来する「長瀬効果」が経験的に知られている。簡単に言えば、「医療費の自己負担金を上げると、受診が抑制される」ということで、医療費削減額には、Y=1-1.6X+0.8X2(Y:医療費の逓減率、X:患者の負担率)という算定式が用いられている。こちらも大まかに計算すると、約2000億円の医療費が抑制効果となる。
 
これらを合わせ4000億円、日本の医療費の国及び市町村公費負担は約33%であるのでこれを乗じて、公費ベースで約1300億円が助かるという算段だ。
 

セーフティネットと予算の駆け引き

 
これを推進していたのが、社会保障審議会委員で東京大学大学院経済学研究科長・経済学部長の吉川洋氏で、「医療保険は、高額療養費制度を補強することなどでビッグリスクはできるだけ皆で支え合う一方、少額の定額負担を導入することで一定程度以上の所得の人に係るスモールリスクは自己負担してもらうべき」と主張していた。
 
これに対し、中央社会保険医療協議会委員を務める京都府医師会副会長の安達秀樹氏は、追加引き下げの分を一般外来受診者だけが負担しなければならないことの根拠が不明確であること、いったん導入すれば100円に留まる保証はないことなどを理由に強い反対を表したほか、医療界を中心に否定的な意見が相次いだため、提言の素案では、検討課題として先送りする方向となった。
 
社会保障給付費はすでに100兆円を超えている。12年度は6年ぶりに診療報酬・介護報酬のダブル改定の春を迎える。団塊の世代が後期高齢者になる25年をにらめば、改革は待ったなしだが、東日本大震災の復興財源確保を優先させるため、改定率と配分を巡って激しいせめぎ合いが続いている。セーフティネットの充実には誰も反対しないが、財源の議論が余りに拙速では同意は得られない。

Vol.27   受診時定額負担は先送り   ~医療の視点編~
つかさき・あさこ プロフィール
読売新聞記者を経て、医療・医学、科学・技術分野のジャーナリスト。経営学修士(MBA)、医療管理学修士。週刊エコノミストで「大人の悠遊 からだチェック!」、メディカル朝日で「命を紡ぎ出す〜再生医療の現場から」連載中。著書に『看護のための経営指標みかた・よみかた超入門』(共著、メディカ出版)ほか。東京医科歯科大学大学院医療政策学博士課程在籍。

補足資料ナナメ読み

【2025年問題】

2025年には、終戦直後の第一次ベビーブーム期(1947~49年)に出生した団塊の世代が、75歳以上(後期高齢者)となり、65歳以上の高齢者も全人口の30%を超え、超高齢社会のピークを迎える。厚生労働省の試算では、医療は52兆円(10年の約1.4倍)、社会保障の給付費は全体で151兆円に達するとされている。国民の約3.5人に1人が高齢者となり、現役世代1.8人で高齢者1人の年金を支えなくてはならなくなる。社会保障費の急増に加え、少子高齢化による医療・介護の人材不足も深刻になり、07年には、労働力人口の5.8%だったものが、25年には8.7~11.8%を確保しなければならない(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの試算)。要介護者は約755万人で、介護費用は19~24兆円、認知症高齢者は約323万人になると推計され、健康寿命の延伸や地域包括ケアの制度設計は喫緊の課題になっている。