きになる”福祉の時事ニュース

Vol.30  急速な少子高齢化シンガポール   ~介護の視点編~

塚崎 朝子 氏 | ジャーナリスト

年初に訪れたシンガポールでは、急速な経済発展を遂げる一方で、日本を上回るスピードで少子高齢化が進行していた。

急速な少子高齢化のシンガポール 国に頼らず自助努力で支える仕組み

 
高齢化率(65歳以上が総人口に占める割合)が7%の「高齢化社会」から14%の「高齢社会」に移行するのに、日本は1970年から85年まで24年がかりだったが、2000年に高齢化社会入りしたシンガポールは、16年に高齢社会となる。
 
平均寿命(男女)は、世界一の日本の83歳に、シンガポールは81歳で迫り、アジアでは2位(09年、世界保健機関調べ)。出生率(合計特殊出産率)は、日本1.37人、シンガポールは1.22人だ(同、世界銀行調べ)。
 
シンガポールの社会保障制度は、税金ですべて賄おうという北欧や、民間にほとんどを委ねるアメリカとも異なる。社会保障では小さな政府ながら、中央積み立て基金(Central Providence Fund: CPF)という、イギリス植民地時代の1955年に導入された制度がある。
 
国民と永住権保有者(PR)は、月額給与の一定割合(11年は20%)を個人口座に積み立てることが義務付けられている。上限があり、5000シンガポール・ドルを超えた分は計算対象にならない。雇用者も一定額割合(同16%)を拠出する。積立金は政府が運用して利息を付けており、住宅購入資金や教育費、医療費はここから充当できるが、残りは原則55歳以上から引き出し可能で、退職
金や老齢年金の代わりとなる。
 
日本の年金のように政府による恣意的な分配ではなく、相互扶助でもないので、一線で働く世代の勤労意欲を鼓舞する効果はあっても、病気がちな人や低所得の人にとっては厳しい仕組みでもある。
 

老親を扶養する義務を法制化

 
老いた親の面倒を誰がみるのかは、高齢化する国の共通の課題だ。シンガポールは、かつての日本同様、東アジア的な家族主義を美徳としている。
 
1996年には、世界でも珍しい両親扶養法(Maintenance of Parents Act)が制定
された。60歳以上で自ら生計を立てられない人、それより若くても病弱な人は、子が親を扶養可能であるのにしない場合に申し立てができる。子は、月払いや一時金での親の生活費を支払わなくてはならない。調停による和解を経てもなお従わない場合は、6カ月以下の禁固、もしくは5000シンガポールドル以下の罰金が科せられる。
 
申し立てられた子には、親を扶養すべきという裁定が下されることが多いが、親がギャンブル依存症などで身上を潰したというケースでは、扶養義務なしとされることもある。「親の面倒は子どもが見るべき」という法の趣旨は、裏返せば「国が面倒を見てくれると思うな」というメッセージにも取れる。
 
シンガポールには介護保険はなく、介護も家族に頼らざるを得ないため、働く女性に負担がかかってくる可能性もある。小規模な多民族国家で、移住者が多く、介護労働についても移住労働者に期待する面が大きくなっているようだ。

Vol.30   急速な少子高齢化シンガポール   ~介護の視点編~
つかさき・あさこ プロフィール
読売新聞記者を経て、医療・医学、科学・技術分野のジャーナリスト。経営学修士(MBA)、医療管理学修士。週刊エコノミストで「大人の悠遊 からだチェック!」、メディカル朝日で「命を紡ぎ出す〜再生医療の現場から」連載中。著書に『看護のための経営指標みかた・よみかた超入門』(共著、メディカ出版)ほか。東京医科歯科大学大学院医療政策学博士課程在籍。

補足資料ナナメ読み

【シンガポール共和国】

イギリス領、日本領などを経て、1965年に隣国のマレーシアから、追放される形で分離独立した多民族の都市国家。メインのシンガポール島と周辺の島を合わせ約707㎡の国土(東京23区相当)に、約507万人(2010年、世界銀行調べ)が暮らす。赤道直下の熱帯雨林気候で、一次産業はほとんどなく、三方を海に囲まれて東南アジアの中心である地の利を活かして、貿易立国として栄えている。経済成長は目覚ましく、10年の1人当たり国民総生産(GDP)は4万3867米ドルでアジア第1位。10年にはGDP成長率14.5%を遂げたが、欧米の需要低下やタイ洪水の影響で11年は約5%の伸びにとどまっている。官民挙げての観光資源開発も進めており、10年には2つのカジノ、複合リゾート施設、新たなランドマークとなる2500室規模の大型ホテルがオープンし、外国人観光客は年間1000万人を突破。公団住宅政策が奏功して、持ち家率(10年)は87.2%に達する。