きになる”福祉の時事ニュース

Vol.31  急速な少子高齢化シンガポール   ~医療の視点編~

塚崎 朝子 氏 | ジャーナリスト

30年間でGDP(名目)が13倍増加と、成長著しいシンガポールは、医療を基幹産業と位置付けて発展を図っている。

急速な少子高齢化のシンガポール 国を挙げ医療産業の発展を図る

 
2007年、1人当たり国内総生産(GDP)で、日本は初めてシンガポールに追い抜かれ、10年時点でも後塵を拝している。年初に訪ねたシンガポールで、「アジアで最も豊かな国は日本」という時代の終わりを改めて実感した。
 
世界保健機関(WHO)による09年時点の平均寿命(男女)は、世界一の日本が83歳、シンガポールが82歳で迫り、アジアでは堂々の2位。同年の出生率(合計特殊出産率)は、日本1.37人に対して、シンガポールは1.22人と下回っている(世界銀行調べ)。
 
なお人口が増加しているのは、移住労働者を多く受け入れているためだ。高齢化率は7.9%(10年)だが、建国45年余りの若い国は、日本以上に急速なスピードで少子高齢社会に突き進んでいる。
 
長寿の要因となる栄養面や医療体制は充実している。通商都市国家として発展を遂げる中で、男女を問わず仕事を持ち、自炊習慣に乏しいため食事は外食が主体。フードコートや屋台の集合施設が数多くあり、終日にぎわっている。平均の体格指数(BMI)値は日本より高い。
 

自助型の保険制度で医療費抑制

 
シンガポールには、中央積み立て基金(Central Providence Fund: CPF)という自
助型の社会保障制度がある。国民と永住権保有者(PR)は、月給の一定割合(11年は20%)を個人口座に積み立てることが義務付けられる。上限があり、5000シンガポール・ドルを超えた分は計算対象にならない。雇用者も一定額割合(同16%)を拠出する。積立金は政府が運用して利息を付け、住宅購入資金や教育費などと同様に、医療費もここから引き出し、残りは55歳以上から引き
出し可能な老後の蓄えとなる。
 
CPFの医療口座(Medisave)への振り分け分は所得の7~9.5%だが、年齢に応じて割合が高くなる。公立病院における入院や日帰り手術などはここから支払うが、さらに高額な医療に備えるために、任意加入のMedishieldというプランが1990年に設けられた。93年には、生活困窮者などに対するMedifundというセーフティネットができ、政府が基金を拠出し、利子を医療費補助に充当している。
 
健康に対する保障や医療費管理を国民に義務付けることで、勤労意識を高め、併せて、払えるのに払わないというモラルハザードも起きない。国家歳出に対する医療費の割合(09年)は9.8%で、年々増加傾向にあるが、日本(17.9%)より低く抑えられている。
 
高付加価値の医療に注目し、アジアにおける医療のハブを目指し、03年から、保健省、観光局などによるキャンペーンを展開し、メディカルツーリズムを積極的に推進する。05年策定の戦略的人材転換計画でも、医療従事者を集中的に育成している。アメリカのメイヨー・クリニック、ジョンズ・ホプキンス大学がん治療センターなどの施設の国内誘致にも成功している。
 
独裁国家であればこその大胆な施策も多いが、見習うべきヒントはありそうだ。

Vol.31   急速な少子高齢化シンガポール   ~医療の視点編~
つかさき・あさこ プロフィール
読売新聞記者を経て、医療・医学、科学・技術分野のジャーナリスト。経営学修士(MBA)、医療管理学修士。週刊エコノミストで「大人の悠遊 からだチェック!」、メディカル朝日で「命を紡ぎ出す〜再生医療の現場から」連載中。著書に『看護のための経営指標みかた・よみかた超入門』(共著、メディカ出版)ほか。東京医科歯科大学大学院医療政策学博士課程在籍。

補足資料ナナメ読み

【シンガポール共和国】

イギリス領、日本領などを経て、1965年に隣国のマレーシアから、追放される形で分離独立した多民族の都市国家。メインのシンガポール島と周辺の島を合わせ約707㎡の国土(東京23区相当)に、約507万人(2010年、世界銀行調べ)が暮らす。赤道直下の熱帯雨林気候で、一次産業はほとんどなく、三方を海に囲まれて東南アジアの中心である地の利を活かして、貿易立国として栄えている。経済成長は目覚ましく、10年の1人当たり国民総生産(GDP)は4万3867米ドルでアジア第1位。10年にはGDP成長率14.5%を遂げたが、欧米の需要低下やタイ洪水の影響で11年は約5%の伸びにとどまっている。官民挙げての観光資源開発も進めており、10年には2つのカジノ、複合リゾート施設、新たなランドマークとなる2500室規模の大型ホテルがオープンし、外国人観光客は年間1000万人を突破。公団住宅政策が奏功して、持ち家率(10年)は87.2%に達する。