きになる”福祉の時事ニュース

Vol.34  増え続ける高齢者の虐待   ~介護の視点編~

塚崎 朝子 氏 | ジャーナリスト

高齢者虐待に歯止めがかからず、増加が続いている。東日本大震災を機に家族の絆が強まったとされるが、家庭や施設では、なお克服すべき課題を抱える。

増え続ける高齢者の虐待 家庭や施設における対処に課題

 
2010年度の高齢者虐待の通報・相談件数は、家族など養護者によるものが2万5315件(実際の虐待1万6668件)で、高齢者虐待防止法に基づく調査が開始された06年度以降で最多を更新した。
 
加害者は、「息子」42.6%、「夫」16.9%、「娘」15.6%の順で、男性が多いのは、家事に不慣れで介護への負担感が大きいことや、仕事との両立が困難であるためと見られている。被害者は女性が74.7%で、80歳代が42.5%を占めた。
 
虐待の種別・類型(複数回答)は、「身体的虐待」63.4%、暴言など「心理的虐待」39.0%、「介護等放棄(ネグレクト)」25.6%、年金を使い込むなど「経済的虐待」25.5%、「性的虐待」が0.6%と続く。死亡者は32人で、「介護者による殺人」17人、「介護放棄による致死」6人、「暴行などによる致死」5人など。
 
一方、養介護施設従事者等によるものの通報・相談は、506件(実際の虐待件数96件)だった。いずれも岩手県・宮城県の5市町を抜いた数字である。
 

虐待を生まない環境づくりが課題

 
増加の背景には、事件などを機に認識が広まったこともある。また、加害者個人の性格などの問題も考慮されるべきではあるが、家族介護が行き詰まっており、介護職も厳しい労働環境によるストレスにさらされている実態もある。介護保険も歯止めになっていないとされ、12年度の介護報酬改定で、一層の効率化が図られると、ヘルパーなど外部の目が届きにくくなる可能性も指摘されている。
 
介護者が孤立するのを予防するには、悩みを話せる場も必要で、家族や職員の間で意思疎通を高めるとともに、地域や行政の目配りも強化しなくてはならない。虐待を生まない環境作りは課題で、経済不安なども背景にあるため、根は深い。
 
一方で、児童虐待も増加の一途を辿っている。2010年度に、通報や相談など全国の児童相談所が対応した件数は、前年から1万件以上増加し、5万5154件(宮城県・福島県を除いた集計)に及んだ。 どちらも、世界一の少子高齢国家の抱える厳しい現実であり、表に出た数字は氷山の一角とも見られている。
 
各地で模索が続いている。広島県では11年3月、県虐待等防止連絡会を設置し、児童や高齢者、障害者への虐待防止について、横断的・多角的に検討して対応することを進めている。市町や福祉関係者に加え、医師、大学教授なども参加して、各分野の関係機関・団体の横断的な取り組み方策や情報共有法を探っていく 秋田県鹿角市は、配達や集金などで一般家庭を回る宅配や郵便など民間の事業者と「見守り活動協定」を締結。独居の高齢者や障害者、子どものいる世帯などが対象で、異常を察知したら市に連絡する態勢
を促す取り組みを始めた。

Vol.34   増え続ける高齢者の虐待   ~介護の視点編~
つかさき・あさこ プロフィール
読売新聞記者を経て、医療・医学、科学・技術分野のジャーナリスト。経営学修士(MBA)、医療管理学修士。週刊エコノミストで「大人の悠遊 からだチェック!」、メディカル朝日で「命を紡ぎ出す〜再生医療の現場から」連載中。著書に『看護のための経営指標みかた・よみかた超入門』(共著、メディカ出版)ほか。東京医科歯科大学大学院医療政策学博士課程在籍。

補足資料ナナメ読み

【虐待防止を定めた法律】

児童虐待防止法(児童虐待の防止等に関する法律)は2000年、超党派の議員立法で成立。児童への虐待を禁止し、虐待を受けた児童を早期に発見・保護し、自立を支援する目的で、国および地方公共団体の責務と連携強化も定められた。08年の改正により、児童相談所の権限が虐待の恐れがある家庭に強制的に立ち入り調査を行うことや、都道府県知事が相談に応じない親への出頭要求ができるようになった。 高齢者虐待防止法(高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)は、65歳以上の高齢者に対する虐待を防止するため、2006年4月施行。国および地方公共団体、国民の責務、被虐待高齢者の保護措置、養護者への相談・指導・助言などの支援措置を定めた。虐待を①身体的な暴力、②長時間放置するなどの介護放棄(ネグレクト)、③暴言を吐くなどの心理的虐待、④性的嫌がらせ、⑤財産を勝手に処分するなどの経済的虐待に分類。生命、身体に危険のある虐待を受けている高齢者を発見した場合には、市町村への通報も義務付けた。